滅亡 act.2
「こ…のっ、クソがぁぁぁ!!」
網膜ウィンドに『装備変更勧告』のダイアログが明滅するのがうざったい。
当に残弾は尽き果て、突撃砲は銃剣をナイフ代わりに使う以外意味を成さないモノと化していた。
『メビウス1よりメビウス13、距離を取れ!』
ミリア隊長の怒号が響き、ふと我に返る。
だが、その瞬間を見越したように要撃級がその両腕を振り上げる。
「……ッ!?」
やられる…そう思った瞬間、爆風により付近の風景が弾け飛ぶ。
『何やってるの?死ぬ気?!』
エリナのフォローによって、要撃級の一撃から事なきを得た。
即座にバックステップで後退し、BETAとの間合いを取る。
「悪い…」
『もぉ…助けてあげたんだから、もうちょっと喜びなさいよね!』
本当は笑顔で返してやりたい。
うまく笑顔が作れない自分がこういう時もどかしく感じる。
「…いや、本当に感謝してる。」
『じゃあ、脱出したら合成エクレア…奢ってね。』
相棒はウィンクで返してくる。
すぐさま2機は複雑な戦術機動をとり、周囲のBETAを屠る。
戦況は一向に好転しなかった。
当初、安易に突破できると思われたBETAの波は予想以上に厚い壁として目の前に立ちはだかった。
それというのも、海岸線ギリギリのライン上に出現坑があり、
BETAという汚泥を滾々と湧き出させる坩堝と化していたからだった。
『メビウス1より各機、状況報告!』
再びミリアからのコール。
「メビウス13、推進剤残量22%。残弾ゼロ。」
『メビウス14、残弾は150を切っています。推進剤も25%しかありません。』
戦域突入から僅かな時間で、既に満身創痍。
後は名誉ある戦死か自爆かの二者択一しかありえない状況…
『それだけ残っていれば、全速で抜けられるな。』
そんな状況にあって、ミリアの声は明るい。
『多少危険な賭けだが…付いて来るか?』
隊長の優しい声が問いかける。
「隊長、分の悪い賭けは嫌いじゃありません。お供します。」
即答だった。
ミリアが『多少』と口にする時は、大抵無理難題が多い。
だが、この中隊に配属されてからそんなことには慣れっこだった。
『ここで反対しても、やり抜くんでしょ…ね、隊長。』
同僚も明るく弾んだ声で続く。
どうやら、二人とも…いや、今生きている中隊全員の考えていることは一緒だった。
『全機、余分な装甲は全て排除。最大戦速で最短距離を突破する!』
「『−了解!!−』」
X-02の装甲がパージされ、骨格フレームがむき出しになるほど細身になる。
突撃砲も投棄し、両腰の跳躍ユニットは死霊の叫びがごとき咆哮を上げる。
『生きて…再び会おう。』
それを合図に、3機は海岸線へとまっしぐらに直進する。
「ぐ…ぅ……ッ!!」
この世のモノとは思えないGがかかる。
ブラックアウト寸前の視野は狭まり、世界がバスケットボールぐらいにしか見えない。
『…この…ま…ま…飛び越えるぞ…ッッ!!』
隊長の声も途切れ途切れに聴こえるが、遠くで微かに呟く程度にしか聴こえない。
(後……少し………)
海岸線に手が届く。
そう思い、不意に手を伸ばした次の瞬間…アラートが鳴り響き、彼は光に包まれた。
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