傀儡 act.2

 

 

 

2004年12月4日 1930時  新潟県旧三条市

 

 

「うぅ〜…冷えるなぁぁ〜…」

 

カタカタと音を鳴らし、見るからに寒そうにしている青年は

全身をすっぽり覆う毛布を被りながら焚き火の前にいた。

 

「なんだ、この程度で寒いのか?」

 

後ろから近づいてきた同僚の気配すら感じなかったのであろう。

目の前に出されたステンレス製のマグカップを差し出されるまで、ずっとカタカタと震えていた。

 

「全身生身のお前さん方にゃ、わからんだろうさ…この気持ちはさ。」

 

首から上だけ毛布から出し、同僚から差し出された飲み物を呷る。

 

「それはすまなかった。配慮が足りなかったな。」

「おまえねぇ、わかって言ってるでしょ?」

 

悪戯に笑う同僚に皮肉を垂れる彼の顔の右側面は機械であった。

 

「この特製ドリンクでチャラって事かぃ?」

「紅茶モドキのブランデー入り…お前は好きだったろう。」

「やめてくれ気持ち悪い。お前は俺のかみさんかょ…」

「そんな女房役と付き合ってどれくらいなる?…好みぐらいわかる。」

 

どっかと彼の傍らに腰を下ろしながら、彼なりの精一杯の皮肉を見事に切り返す。

切り替えされた側は何かを言いかけてから首を振り、話題を切り替えることにした。

 

「そもそも、なんだってこんなところに呼び出されたんかね?もうハイヴなんぞもないし…」

 

そう…かつてはこの先数十キロ先の沖合いには島が在り、異星起源種達が跋扈する地獄があった。

そんな彼らが座している地には防衛線が張られ、その醜悪な侵略者達から民を救うべく戦っていた古戦場であった。

今は過去にあった大津波の影響で塩の平野と化している。

 

「確かにな。実際演習としか聞かされていないが…お上からの命令である以上仕方あるまい。」

「お前さんの装備『零式』は市街戦向きじゃないし、俺の愛機も開けた場所向きだからってことかい。」

「恐らくな。ただ、対戦相手の情報を先ほど入手してきた。」

「ほう…流石に仕入れが早いな。んで、どこのお嬢さん達だい?」

 

同僚は肩を竦め「やれやれ、またか」と呟くと言葉をつなげた。

 

「聞いて驚け。日本帝国軍試験開発部隊…」

「例の06式か!?」

 

彼は同僚の言葉を打ち消し、嬉々とした表情で聞き返す。

まるでそれは待ちに待ったプレゼントを与えられた少年のような輝きに満ちていた。

 

「ああ。相手にとって不足はあるまい?」

「それを早く言えっての。」

 

そう言うと彼は被っていた毛布を払いのけると、格納庫へ向かい走り出す。

と、その頭上を轟音と共にフライパスする巨人の影。

 

「おいでなすったぁ!!急げよマガミ!」

 

ふぅと息をつき、はしゃぐ彼…鏑木正成の後姿を追うように真神澪示大尉はゆっくりと歩き始めた。

 

(だが、確かに腑に落ちない点が多々ある。)

 

ふとそんな考えが頭をよぎったが、すぐさま斯衛出身の彼の厳しい部分が己を律する。

 

(鏑木もそんなことはわかっているだろうが…一兵卒の考えが及ぶところではあるまい。)

 

真神の考えをかき消すかの如く、二つ目の轟音が過ぎ去る。

そのシルエットは94式不知火に似通っているが、細部が異なっている。

 

(試製06式…どれ程の物か、試させてもらおう。)

 

鏑木ほど表面には出さないが、真神もまた今回の演習に対し静かに闘志を燃やすのであった。

 

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